秘境発地獄への旅 ジロ・デ・イタリア2025 勝手にプレビュー

ピンク色のタデイ・ポガチャルが“爆走”したジロ・デ・イタリアから早1年。再び、イタリアの全てがその色に染まる季節がやってきた。

正気ではない道こそ正気

今年のジロは真っ当だ。当たり前のように総獲得標高が5万メートルを超える。レースを厳しい設定にしないほうがスペクタルになると一瞬でも信じた主催者は、やはりジロは正気であってはならないと気づいたのだろう。もっともピンクポガチャルが1年前のイタリアを快走する頃、2025年のコースは最終的な確認段階に入っていたはずだが、「ヤツは来年も来るのか?」「それなら山を一つ二つ増やすべきか?」という楽しい議論をしていたわけではない。

ジロ主催者は2025年大会を3年ぶりの国外スタートにすると決め、アドリア海を挟んで向かい合うアルバニアで最初の3日間を過ごすことにした――。

これをもっと正確に言えば、主語は主催者(RCSスポルト)ではない。どういうことか。

1939年にイタリアのアルバニア侵攻で戦火を交えた両国の関係は今、ぎこちなくも良好だ。欧州最貧国と言われるアルバニアの政治経済はイタリアへの依存が強く、2023年にはイタリアに流入する移民を留め置く施設をアルバニア国内に建設する協定を交わした。しかしその政治的決定の妥当性をめぐり、メローニ首相と対立する野党からは「税金の無駄使い」、司法からは「人権侵害」だと批判が噴出。今年5月11日に議会選が行われるアルバニアもラマ首相率いる与党社会党が盤石とは言えず、「厳しい選挙戦になる」(CNNの報道)と伝えられる。

アルバニアは1938年にイタリアの侵攻を受けた。その後イタリア、ドイツの統治を経てソ連などの影響下で社会主義政権が発足。1992年まで閉鎖的な体制が続いた

関係は悪くはないが政治状況はのっぴきならない。そんな二国間のぎこちなさに翻弄され、一時はアルバニア開催が暗礁に乗り上げかけた。ジロ主催者はシチリア島での代替開催(イタリア自転車メディア)を視野に水面下での調整を続けていたという。アルバニアがジロ主催者に支払う誘致料は700万ユーロ(約11億2千万円)だと公然と報道されているが、貧国アルバニアが払えなかったわけではなく、政治の“混沌”が意思決定を遅らせたのだ。

アルバニアでのスタートは2024年12月にようやく確定した。自転車メディアのサイクリング・ニュースは何らひねることなく、こう伝える。「アルバニアでのグランデ・パルテンツァ(開幕)は、イタリアとアルバニアの関係を前進させるための政治的ゲームプランのようだ」。

前置きが長くなった。いや、そういう前置きが現実として長かったからこそ、今年のジロ・デ・イタリアはひねらずに極めてジロ・デ・イタリアだ。美しくて、厳しい。ありがたいことにアルバニアでの3日間を終えても、一行はしばらくイタリア南部でのレースを楽しむため、雪に閉ざされやすい北部に入るのは少し遅くなる。初夏の南欧に青い空が広がり、どろどろとしたポリティカルゲームを忘れさせる美観が待っている。地獄とは裏腹に。

大本命なしの総合優勝争い

今大会にはチームカテゴリーで1部に相当するUCIワールドチームの全18チームと、2部相当のUCIプロチームから5チームが出場する。

厳しいコースであるだけに、ピンク色のジャージー「マリア・ローザ」(個人総合時間賞)をめぐる争いは、登坂力が重要になる。有力選手はUAEチームエミレーツXRGのフアン・アユソ(スペイン)、同チームのアダム・イェーツ(イギリス)、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエに所属する2023年大会覇者のプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)、スーダル・クイックステップに移籍して2年目となるミケル・ランダ(スペイン)、プロチームQ36.5に活躍の場を求めたトーマス・ピドコック(イギリス)など。

前哨戦の一つ、ボルタ・ア・カタルーニャ(カタルーニャ一周)ではアユソとログリッチが激しく競り合い、最終的にログリッチが逆転優勝を飾った。アユソはイタリア開催の7日間レースティレーノ~アドリアティコで総合優勝し、ピドコックは6位、ランダは7位に入った。プロチームイスラエル・プレミアテックのデレク・ジー(カナダ)も同レースで総合4位と健闘した。

今年6月での引退を発表しているロマン・バルデ(フランス、チームピクニック・ポストNL)は現役生活最後のグランツールとなる。前哨戦ツアー・オブ・ジ・アルプスでも好走しており、十分に上位に入る可能性がある。

スプリンターが獲得しやすい紫色のポイント賞ジャージー「マリア・チクラミーノ」は、リドル・トレックのマッズ・ピーダスン(デンマーク)、ヴィスマ・リースアバイクのオラフ・コーイ(オランダ)、アルペシン・ドゥクーニンクのカーデン・グローブス(オーストラリア)など実力者の争いとなるかもしれないが、春のワンデーレースで上位成績を次々とたたき出しているコフィディスのミラン・フレティン(ベルギー)のグランツールでの走りも楽しみだ。

青色の山岳賞ジャージー「マリア・アッズーラ」、若手選手を対象とした白色ジャージー「マリア・ビアンカ」は、いずれも個人総合時間賞と重なる部分が多いため、詳述は割愛する。

これらの状況を踏まえて、個人総合時間賞(マリア・ローザ)の優勝予想はフアン・アユソ、2位をプリモシュ・ログリッチとしておく。2度の個人タイムトライアルがあることも彼らには有利だ。アシスト体制も互角。そして“隙”も同じくらいだろう。わずかな差で決まりそうだ。

ポイント賞(マリア・チクラミーノ)はオラフ・コーイを予想する。上述のアユソをアシストするのがアダム・イェーツ、コーイを安全に導くのがサイモン・イェーツだとすれば、実力者イェーツ兄弟のアシスト力にも注目したい。

次項からは簡単に各コースを紹介していく。注目は未舗装路が組み込まれた第9ステージ、今大会の山場となる第16ステージと第19ステージ、そして大逆転の可能性を秘めた第20ステージだ。総合優勝争いは3週目に凝縮されるため、地獄を旅するにも関わらず、2週目までは(日本の視聴者にとって)睡眠時間は確保されやすい。

アルバニアラウンド:流転する共和国が贈る静かな災い

第1ステージ(5月9日)
ルート:ドゥラス→ティラナ
分類:丘陵
区間優勝予想:オラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク)

対岸にイタリアを見るドゥラスをスタートし、首都ティラナにゴールする。首都周辺では周回コースを2周する。コースは計3カ所の3級山岳ポイントがあり、最後の頂上からゴールまではわずか12キロしかない。スプリンターの中には遅れる選手も出てくるだろう。日本ではめったに見ることがないアルバニアの大地を走る。ドゥラスは紀元前7世紀にギリシャの植民地として建設された港湾都市で、一時はアルバニアの首都になったこともある。最初の3級山岳の手前で通るエルバサンはトルコ占領時代の14世紀頃に要塞が築かれ、今も古い街並みが残る小都市。ティラナは人口約50万を数え、旧ソ連の援助を受けた軽工業が盛ん。ムスリムも多く、文化は変化に富んでいる。「ヨーロッパの秘境」とはネガティブな意味合いで使われている言葉だが、この日はまさに歴史の荒波を生きてきたアルバニアという国を象徴するステージとなる。

アルバニアの経済はまだ発展途上。社会主義時代の面影を残す建物が街並みの特徴となっている

第2ステージ(5月10日)
ルート:ティラナ→ティラナ
分類:個人タイムトライアル
区間優勝予想:ジョシュア・ターリング(イネオス・グレナディアーズ)

ティラナの市街地を走る13.7kmの短い個人タイムトライアルが用意された。屈曲が多いテクニカルなレイアウトで、途中には4級山岳の短い登坂もある。この上り坂の頂上は巨大な円形オブジェクトを中央島に置くラウンドアバウトだ。全体のスタート地点は、オスマン帝国の襲来をはねのけた英雄を讃えるスカンデルベグ広場。同国の国旗にある双頭の鷲(ワシ)は彼の紋章という。やはり今日も歴史を遡る日と言えよう。昨日よりも色濃く、社会主義時代の面影を感じられる。レース自体には驚きはなく、テクニカルとはいえタイムトライアルのスペシャリストに有利。

第3ステージ(5月11日)
ルート:ブローラ→ブローラ
分類:丘陵
区間優勝予想:マルク・ヒルシ(チューダー)※掲載後不出場確定

天然の良港・ブローラを発着するステージでアルバニアの3日間が終わる。フィニッシュから約40キロ手前に2級山岳地点があり、登坂距離10.7km、平均勾配7.4%というプロフィールがある。総合系の選手が競うには緩いが、スプリンターをふるい落として今日の区間優勝をもぎ取りたいチームにとっては十分すぎるほどの仕掛けどころになる。木がほとんど生えていない峠道はアドリア海を眺めるには最高だ。しかしスプリンターにとっては景色どころではない災いが待っている。

移動日(5月12日)

1週目:敗者のみが決まる“前哨戦”

第4ステージ(5月13日)
ルート:アルベロベッロ→レッチェ
分類:平坦
区間優勝予想:マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)

イタリアに入国した一行は、漆喰の白壁と丸屋根という独特な建物が立ち並ぶ世界遺産アルベロベッロをスタートする。今日は眠い。レース開始直後に4級山岳地点があるが、そこからはずっと平坦だ。フィニッシュ地レッチェに入るまではカーブさえほとんどない。レッチェに入ると市街地を1周回してからフィニッシュするため、急に右左折が出てくる。こういう集中力を欠きそうなステージは、最終局面での落車と、周回を忘れての勘違いガッツポーズには注意しないといけない。もちろんテレビを眺める視聴者も寝落ちという名の落車には注意がいるが、正直に言えば結果で内容を想像できるステージでもある。寝よう。なお、今日は踏切を4回も渡る道のりになっており、いずれも単線かつ斜めに横断する。

第5ステージ(5月14日)
ルート:チェーリエ・メッサーピカ→マテラ
分類:平坦
区間優勝予想:プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)

イタリアの土踏まずを走る145kmの短いステージだ。分類では「平坦」とされているものの、終盤に4級山岳を含むアップダウンが用意され、スプリンターは全員は残れないだろう。逃げ切りの可能性があるほか、4級山岳以降にワンデーレースを得意とするような選手が飛び出していく展開も予想される。隠れた敵は風だ。ジロといえば北部ポー平原やアドリア海岸での横風分断が警戒されるが、その予行演習とばかりに風を使うチームも出てくるかもしれない。ついでに当地のストリートビューを見ると道路を横断する犬が映り、わんわん落車が懸念される。油断大敵。今日は昨日とは違って眠るわけにはいかない。

第6ステージ(5月15日)
ルート:ポテンツァ→ナポリ
分類:平坦
区間優勝予想:マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)

昨日とは一転、今日は226kmの長距離レースとなる。歴史もまた長い地域であり、紀元前2世紀から発展してきたポテンツァをスタートし、市街南東にヴェスヴィオ火山を控えるナポリにゴールする。ナポリは紀元前6世紀にギリシャ人の植民都市(ネアポリス=新しい都市)として建設され、ノルマン、フランス、スペインなどからの支配を受けてきた。近郊ポンペイ遺跡と幾重にも重なる歴史、ナポリ湾の自然が魅力となって観光客を引きつける。何のひねりもない“ナポリを見てから死ね”ということわざはこれ以上ない褒め言葉だろう。レースはだらだらと進んで大集団スプリントとなる。明日は厳しい山岳ステージだ。スプリンターは今日を勝たずして帰ることはできない。

ナポリは海、山、街が調和する。近年のジロ・デ・イタリアではナポリをコースにうまく取り入れている

第7ステージ(5月16日)
ルート:カステル・ディ・サングロ→タリアコッツォ
分類:山岳
区間優勝予想:マイケル・ストーラー(チューダー)

巨大な堰止め湖が干上がってできたフチーノ盆地の北方に林立する山並みを掛けていく山岳ステージ。今大会初となる山頂フィニッシュで、個人総合優勝の争いが第0章というようなレベルで起きる。今日で優勝者が決まることはないが、少なくとも勝負権のない選手がはっきりする。勝者は分からずとも敗者の分かるステージだ。ゴール地点への登坂は距離12.5km、平均勾配5.4%ながら、後半は最大勾配14%を含む厳しい登りとなる。ただピュアクライマーにとっては距離が短く、パンチャーにとっては厳しいレイアウトは、アユソとログリッチが勝負する場所ではない。チューダーのマイケル・ストーラー、EFエデュケーション・イージーポストのリチャル・カラパスやゲオルク・シュタインハウザーが飛び出したとしたら、それを見送るのも一手だ。さすがに今日は眠気を催さないレースになる。さきの盆地は穀倉地帯だ。古都の風景を眺めた昨日とは異なり、緑と青の自然世界をピンク色を懸けたライダーたちが走りゆく。

第8ステージ(5月17日)
ルート:ジュリアノーヴァ→カステルライモンド
分類:丘陵
区間優勝予想:マヌエーレ・タロッツィ(VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ)

アドリア海沿いのジュリアノーヴァを出立した集団は、途中に1級山岳があり、終盤にもアップダウンがあるコースを、アペニン山脈が作る襞の中にある小都市カステルライモンドを目指して走る。レースはブドウ、オリーブなどの栽培が盛んなエリアに入り、J SPORTS中継では“ワイン畑”の言葉が出てくるだろう。典型的な逃げ切りステージだ。地元イタリアのバルディアーニやポルティ・ビジットマルタ、UCIポイントを稼ぎたいXDSアスタナ・カザクスタン、同じく残留争い渦中のチームピクニック・ポストNLにとっては勝負しておきたい。

第9ステージ(5月18日)
ルート:グッビオ→シエナ
分類:丘陵(グラベル)
区間優勝予想:トーマス・ピドコック(Q36.5プロサイクリング)

注目のステージがやってきた。未舗装路を走るクラシックレース(ワンデーレース)として名高い「ストラーデ・ビアンケ」と同じくシエナにゴールする今日は、それと同じように未舗装路が組み込まれた。グラベル(未舗装)セクションは5カ所あり、計29.5kmを走る。シエナのゴールに向かう登坂も厳しい。総合優勝争いを目指す選手にとっては今日を無事に走りきることが最大のミッションだ。区間優勝候補に挙がるのはトーマス・ピドコック、ワウト・ファンアールトなど。ただ、バーレーン・ヴィクトリアスの総合系ペッリョ・ビルバロも本家ストラーデ・ビアンケを5位で終えており、適性がある。

ワンデーレースのストラーデ・ビアンケは「白い道」のこと。アップダウンのある未舗装の道を駆け抜ける。パンクとスリップ落車に注意が必要だ

休息日(5月19日)

2週目:静かなイタリア旅行 主役はスプリンター

第10ステージ(5月20日)
ルート:ルッカ→ピサ
分類:個人タイムトライアル
区間優勝予想:エドアルド・アッフィニ(ヴィスマ・リースアバイク)

28.6kmの個人タイムトライアルでレースが再開する。中盤に緩やかな峠の勾配があり、下り区間はつづら折りとなるが、全体的には直線基調。クロノマン(個人タイムトライアルのスペシャリスト)が活躍しなければならないステージだ。ゴール地点は言わずと知れたピサの斜塔のそば。ただ、ジロが斜塔を映し出すのは2006年以来で、久しぶりの登場となる。06年も個人タイムトライアル。このときはヤン・ウルリッヒが勝利したが、のちにドーピングで失格扱いとなった。2位に入ったのがイヴァン・バッソ。今はリドル・トレックでスポーツ・ダイレクターをしている。今大会のトレックはマティアス・ヴァチェクがタイムトライアルでは上位に入りそうだ。

第11ステージ(5月21日)
ルート:ビアレッジョ→カステルノーヴォ・ネ・モンティ
分類:丘陵
区間優勝予想:クリス・ハーパー(ジェイコ・アルウラー)

ティレニア海沿いのビアレッジョを旅立ったプロトン(メイン集団)は、それなりの数になると見られる逃げ集団を先行させるだろう。1級山岳サンペグリーノを越え、二つの2級山岳を経てカステルノーヴォ・ネ・モンティに到達する。ゴール直前の2級山岳は登坂距離6.5km、平均勾配5.2%。逃げ切りを容認し、プロトンは平穏なゴールを迎えるのがこういうレイアウトの典型的な展開だが、果たしてどうなるか。今日のレースは牧畜が盛んで、硬さが売りのパルミジャーノ・レッジャーノ(パルメザンチーズ)が特産となっている地域を走る。ゴール地は交通の要衝にあり、切り立った台地状の独立峰がシンボル。少し不思議な地名は当地を取り囲む丘陵地帯に築かれた城が起源だという。ゴール地の街では陸上競技を中心にスポーツ大会がよく行われている。

第12ステージ(5月22日)
ルート:モデナ→ヴィアダーナ
分類:平坦
区間優勝予想:カーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)

ポー平原を走る平坦ステージが組まれた。通常であれば数人の逃げ集団を前に置いてレースを進め、残り20キロくらいで吸収して大集団でゴールになだれ込む展開が想定される。逆に言えば最後の局面以外はそれほど動きがなく、特に総合系の選手は休んでいられる。しかし、今日は違う。ポー平原の名物は横風。残り90キロで三つ目の3級山岳を越えたあたりから、ゴールのヴィアダーナに入るまでの区間は真横からの風が予想され、後方に取り残されるライダーも出てくる。総合表彰台を狙う選手たちはミスが許されない。

ポー平原は遮るものが何もない。風はポー川に沿って吹くため、川を横断するルート編成は横風地獄を意味する。横風はまとまっていた集団を分断させる最大の脅威

第13ステージ(5月23日)
ルート:ロビゴ→ヴィチェンツァ
分類:丘陵
区間優勝予想:ワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)

「陸のベネチア」とも言われるヴィチェンツァを目指すコースは、180kmを走って獲得標高1600メートルという平坦模様ながら主催者によって「丘陵」とカテゴライズされた。終盤のヴィチェンツァ郊外で4級山岳が連続し、ゴールもそれを登ることになるからだろう。スプリンターの一部には苦しく、ワウト・ファンアールトのようなクラシックハンター向きだ。ところで、ヴィチェンツァの南西ではミラノとベネチアを結ぶ高速新線が建設中。2029年の開業を目指して工事を進めており、残り86キロ付近のサン・ボニファーチョ周辺で何度か横断する。

ビィチェンツァ周辺はイタリア北部の美しい風景が広がる

第14ステージ(5月24日)
ルート:トレヴィソ→ノヴァ・ゴリツァ
分類:丘陵
区間優勝予想:ヘルベン・テイッセン(アンテルマルシェ・ワンティ)

今日も終盤に4級山岳が設定されているが、昨日とは異なり頂上フィニッシュではない。プロトンはアドリア海北端ヴェネト州、フリウリ・ヴェネツィアジュリア自治州を東へ、東へと突き進み、そのままスロベニアに入って国境のノヴァ・ゴリツァにフィニッシュする。最終盤はイタリアとスロベニアを行き来する周回コースとなり、日本では感じにくいシェンゲン圏のおもしろさも伝わってくる。今日の獲得標高は1100メートル。そしてカテゴリーは「丘陵」。平坦に見えて、もしかしたら不意打ちの激坂や横風という落とし穴があるかもしれない。

第15ステージ(5月25日)
ルート:フィウメ・ヴェネト→アジアーゴ
分類:山岳
区間優勝予想:デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)

ジロ・デ・イタリアはいよいよ勝負どころのアルプスに入っていく。今日はその足慣らし。1級山岳モンテ・グラッパ、2級山岳ドリを経てアジアーゴに至る。モンテ・グラッパは登坂距離25kmに及ぶ山岳となるが、コース中盤に組み込まれており、遅れた選手も十分に復帰できる。2級山岳の山頂からゴールまでも約30キロあり、今日は総合優勝争いは勃発しない。2級山岳で飛び出した逃げ屋が小集団で先行し、そのままゴールする展開となるだろう。高原地帯のアジアーゴはチーズの名称としても知られる。アルファベットで書くとASIAGO。その名にほだされるならXDSアスタナ・カザクスタンは頑張らないといけないが、現実的に2位か3位になだれ込む機会は逃すまい。

休息日(5月26日)

3週目:天空の地獄に誘われ、いざ本番

第16ステージ(5月27日)
ルート:ピアッツォーラ・スル・ブレンタ→サン・ヴァレンティーノ
分類:上級山岳
区間優勝予想:フアン・アユソ(UAEチームエミレーツXRG)

ヴィチェンツァの東をスタート地として、3週目の戦いが始まる。本気のジロは容赦なく、週明けにいきなりのクイーンステージ(最難関ステージ)だ。ガルダ湖を懐に抱くサン・ヴァレンティーノまでに、ジロはゴール地を含む三つの1級山岳を置き、2級山岳と3級山岳も一つずつ配置。総獲得標高は4900メートルと恐ろしい。今日4つめの山岳ポイント1級サンタ・バルバラまでに大半のチームがアシストを使い果たすだろう。最後はエース同士の対決となる。ここでは優勝候補が力でねじ伏せるか、総合優勝には絡めないまでも登坂力があるクライマーが飛び出すか、どちらかの展開になる。また、後方ではスプリンターたちがタイムアウトとの戦いを繰り広げ、テレビの前では日本の視聴者が時計とのにらめっこを強いられる。楽しい。しかし明日はまだ水曜日。休息日にしておいた寝溜めをすでに開放すべきか? そうだ。誰にとっても厳しい一日を受け入れるのが、クイーンステージの宿命だ。

ガルダ湖北端付近を臨む写真(Wikimediaより)。今大会のジロは撮影者の手前側の峠道を通って、左の山塊に飛びつく

第17ステージ(5月28日)
ルート:サンミケーレ・アッラディジェ→ボルミオ
分類:丘陵
区間優勝予想:ロマン・バルデ(チームピクニック・ポストNL)

154kmの短いコースに2級山岳、1級山岳、3級山岳が組み込まれ、終始アップダウンが続く。ウインタースポーツの拠点となるリゾート地ボルミオに至るまでの獲得標高は3800メートルに達する。ジロ主催者につばを吐き散らかして言いたい。「どの顔が今日を『丘陵』と呼ぶのか」――。レースはクライマーが勝負に出れば、逃げ切れる可能性がある。ロマン・バルデ、エガン・ベルナル、リチャル・カラパス、ナイロ・キンタナなどの少し力を落としている選手にとっては好都合なレイアウトだ。復活を印象づけることも、バルデならば最後の花を咲かせることもできるかもしれない。

第18ステージ(5月29日)
ルート:モルベーニョ→チェザーノ・マルデノ
分類:平坦
区間優勝予想:マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)

今日の時点でどのスプリンターが生き残れていて、なおかつ勝負する脚を残せているか。3週目ともなるとエースをゴールへと運ぶアシスト選手であっても疲労の色は隠せない。こういう日は何が起きるだろうか。おそらく逃げ集団は発生しないか、かなり早い段階で掴まってしまう。それなりのサイクリングで(ただし高速だが)ゴール地へと向かう展開だ。休みながら走ったプロトンの大集団決着は、やはりピュアスプリンターに有利に働く。景色もいい。序盤はコモ湖沿いを走り、大都市ミラノ近郊にある公園がきれいな街に到達する。駅にはミラノへの近郊列車がひっきりなしに発着する。

第19ステージ(5月30日)
ルート:ビエッラ→シャンポルク
分類:上級山岳
区間優勝予想:ダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)

今日をクイーンステージだと言う人もいるかもしれない。総獲得標高4950メートル。常軌を逸することに常軌の悦を求めるジロは、上りと下りしかないコースを再び用意した。第16ステージと異なるのは、多分に逃げ切りの可能性を秘めていることだ。1級山岳ジューを登り詰めたあと、これまでの道を思えばかすり傷でしかない3級山岳を越えてゴールする。総合優勝争いの選手たちは、今日というよりは、明日を見越して後方で脚の削りあいをすることになる。明日こそが魔の山。ライバルが翌日に残せる力を削るために、逃げ集団にあえて何人かの有力アシストを送り込み、ライバルに脚を使わせるという作戦もあるだろう。チーム力の勝負が見られるのが今日というクイーンステージじみた不思議な一日の特徴だ。

第20ステージ(5月31日)
ルート:ベレス→セストリエーレ
分類:上級山岳
区間優勝予想:プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)

2018年、クリストファー・フルームは未舗装のフィネストレ峠で飛び出すと約80キロの独走で歴史的な大逆転をやってのけた。2020年代の主役となったタデイ・ポガチャルがあまりにも独走するため、今なら記録は平凡かもしれないが、記憶には鮮烈に残る勝利だった。今日のコースはそのフルームを讃えるようなレイアウトだ。ただ、2018年はフィネストレ峠のあとも長く上り下りを繰り返したが、今回はその次に待つセストリエーレがフィニッシュライン。後続に3分差を付けた2018年ほどのギャップは生まれないだろう。それでも、大逆転の地という薫香が、有力選手たちを誘う。フィネストレ峠は今大会最高標高地点(2178メートル)であり、最初に通過したライダーにチマ・コッピ特別賞が贈られる。総合優勝を目指す者たちの、文字通りの頂上決戦だ。

クリス・フルームは2018年の第19ステージでこの道を独走し、ピンク色のジャージーに袖を通した。ある者は勝者となり、ある者は全てを失う。それがチマ・コッピ特別賞が設定される最難関峠の本来の姿だ

第21ステージ(6月1日)
ルート:ローマ→ローマ
分類:平坦
区間優勝予想:オラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク)

今年のジロ・デ・イタリアは6月に入っての結末となった。昨日の激闘を終えた選手たちは一路ローマを目指して飛行機に乗り、今日のだらだらとしたレースをこなしていく。序盤は本当に退屈だ。ローマから離れて地中海・ティレニア海を目指し、Uターンして戻ってくる。バイパス道路の沿道は特段の観光地もなければ、観客もほとんどいない。ただただ昨日で決まった総合優勝者をお決まりのように讃え合ってレースを進めていく。しかし、最後は一転する。ローマの歴史を詰め込んだ周回コースは次第にスピードが上がり、干からびつつある体を絞ってスプリントで決する。テクニカルな市街地のコースはそれほどトレインが機能しない。常に前方で立ち回ったチームに有利に働き、チームとしての3週間の勝ち方を知るヴィスマ勢、マッズ・ピーダスンを抱えるリドル・トレック勢が集団を牛耳るだろう。自転車乗りの長い長い旅路が終わる。アルバニアで歴史の混沌を目の当たりにしたプロトンは、いくつもの脱落者と一握りの成功者に光を当て、栄華を極めたローマで地獄を旅した相棒を慈しむ。